疑似3DVR

「疑似3D空間に入ったらどう感じるか?」をテーマにOculus Rift用デモを作ってみました。

ここでいう「疑似3D」とは狭義の、80年代セガ体感ゲームシリーズに代表される2Dスプライトの拡縮による遠近法を指します。

当時のゲーム向けハードウェアにおいて、オブジェクトが遠くから近くへ迫ってくる様子をリアルタイムに描くのにはスプライトが適していました。スプライトとはアニメでいうセル画のようなもので、背景グラフィックを書き換えることなく自由に動かせる絵のことです(当時、グラフィックの書き換えは非常に重かった)。ゲームのキャラクターを表示するのに重宝でしたが、表示数などに制約があり、その量や大きさを増すことが表現の進歩とされていました。

話を疑似3Dに戻すと、件の体感ゲームシリーズはこの表現の最先端で、しまいには画面を巨大なスプライトで埋め尽くすようにさえなりました。しかし、ゲームそのものは昔ながらの内容、つまりレースなら前進・カーブの連続がプログラムされているだけで(それはそれで一種の空間だが)、いまふつうに想像されるような3D空間が構築されているわけではありませんでした。まさに「疑似」3Dだったのです。

が、1988年、画期的なゲームが登場します。『パワードリフト』です。このゲームでは、立体的なサーキットが完全な3Dデータとして構築されていました。ただし、表現はやっぱりスプライト。道路はポリゴンによる曲面ではなく、コンクリート模様のスプライトが敷き詰められてできています。それでも3Dゆえカメラワークは自由自在。コースを俯瞰したり、自車を正面から映したり、自車の周りをカメラが回り込んだりといった演出もあります。いくら視点を変えても個々のスプライトは常に正面向き(いまでいうビルボード)ですが、けっこうな立体感がありました。

パワードリフト。いまは理屈がわかるが、当時はどうしてこんなことができるのか不思議だった

やがてポリゴンが普及し、疑似3D表現はぱったりと途絶えてしまいます。絶無とまでいかないものの、モバイルでもふつうにOpenGLが使えるいま、かつて体感ゲームで見られたほどリッチな疑似3D表現をあえてする意味はないのでしょう(じつはけっこう重いし)。独特の迫力があって個人的には好みなのですが。