アタリオブジェ #3 補足

脱線になるので書かなかった詳細について、ここでいくつか補足します。

企画

パノラマ映像をリアルタイムにプロジェクションマッピングするというアイデアは去年から思い描いていたものです。本当に人が乗って操縦できる某巨大ロボットにプロジェクションマッピングするという案件があり(これについてはいつか書きます)、これは「光学迷彩」を施すしかないだろうと考えました。背後に向けたカメラ映像を前面に投影すれば、透明には見えないながらもなんとなく背景に溶け込む様子は表現できるはず。しかし期間の都合で残念ながら実現できませんでした。今回はカメラの向きこそ逆ですが(前面に手前の映像が投影される)、原理は同じです。操作により前後の映像が入れ替わり光学迷彩化する機能もじつは備えていました。

Optical-camouflage

反対側の映像が投映される光学迷彩モード。SF風の演出として表面の凹凸に代わってハニカム状のズレやノイズが生じる。ちなみに本当に透明に見せるには鑑賞者の視点も考慮しなくてはならない


素材

オブジェはもともとはスチレンボードで作る予定でした。ジェッソでも塗れば質感が良くなりマットで映像も乗りやすくなります。しかしソフト制作にかまけてるうちに注文するのを忘れ、気付いたときには納品が間に合わない状態に。そこで素材を急遽ダンボールに変更、東急ハンズに走りました。面積当たりの価格は1/5くらいでしたが、防水剤などが余計に必要となったため結局たいして安くなっていません。ジェッソではなくホイップクリームを塗ることにしたのは、これも塗って乾かす時間が足りない(数回重ね塗りしないときれいにならない)ことに対する苦肉の策です。一発で厚塗りできればなんでもよかったのですが、お祝い=ケーキという発想でクリームにしました。

Styreneboard

とはいえスチレンボード1枚は素材確認のため先だって購入済み。どうしよう

マルチディスプレイ

今回は4台のプロジェクターを使いました。ホストはGeForce GTX670を搭載したPC1台。GTX670は4つのディスプレイ端子を備えているので基本的には問題ないのですが、ちょっとしたハードルがあります。DisplayPort・HDMI・DVI-I・DVI-Dと、4つの端子すべて規格が異なるのです。一方プロジェクター側はVGAやHDMIは備えているものの、DVIには対応していなかったりします(自分が知る限り、一般的なデータプロジェクターはそうだった)。よって出力をVGAかHDMIに変換してやる必要があります。大抵はアダプタが入手しやすくケーブルも延長しやすいVGAに変換するのですが、DVI-Dだけは簡単にアナログ変換できないためHDMIにしてやります。

GPU

そのGTX670ですが、会場で準備中に壊れました。すぐさま歌舞伎町から西口のヨドバシにダッシュ(&タクシー)し、代わりにGTX760を買ってきました。世代が違うとはいえそれなりに高価で高性能だった670と比較的安価な760とではさほど変わらないと思ったのですが、ひとつありがたい差が。670ではソフトを4画面(4プロジェクター)にまたがるサイズに広げると若干処理落ちするのに対し、760ではヌルヌル動きます。ちなみに使用プロジェクター1台のネイティブ解像度は1280×800ピクセル。4画面分で2560×1600ピクセルです。最適化している想定解像度が670はフルHDまで、760は4Kとかなのでしょうか? とにかく怪我の功名で、走った甲斐がありました。

操作

TouchOSCを使いiPhoneから無線で調整/演出操作できるよう、ソフトをOSCに対応させ、Wi-FiルータでPCとiPhoneだけの閉じたLANを構築していました。これが制作中では普通に動いていたのに、会場ではウンともスンともいいません。接続もファイアウォールも問題なく、結局原因はわからずじまい。しかしキーボードでも操作できるようにしていたため、やりにくいながらもなんとか事なきを得ました。ただ、持ってきていたのがコンパクトな安キーボードだったためNキーロールオーバーできず、同時にトリガできる演出が限られてしまったのは残念。常にPCのそばでキーボードをいじっているというのも見た目いいものではありません。

撮影

制作過程や現場の様子を撮影しておくと技術共有や営業などに使えます。撮影や編集の勉強にもなったります。今回もいちおうカメラを携えていたものの、忙しくてところどころ工程が抜けているうえ、あろうことか肝心の会場にカメラを持っていくのを忘れてしまいました。前回掲載した会場での写真は専任カメラマンが撮ったビデオからオブジェが映っているシーンをキャプチャしたものです。

…等々、なにしろ短い期間に手探りで作っていたのでトラブルも頻発しました(凡ミスも多いですが)。会場も機材も一晩限りの借り物で、事前に厳密なテストはできません。しかし現場の仕事は得てしてそういうものです。その点今回のような“自社案件”であればリスクをとりやすく、そうした経験を積んだり新しいことを試すには絶好の機会となります。

Test

あり合わせの機材ではむろんテストしていた